15時の童話
ひるさがりの午後。 コーヒー片手に童話はいかがですか?

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プロフィール

Author:まみや ゆうき
 「文学や 文芸ではなく 文療を」

 ひとり ひとり、
 同じ人間がいないように、

 ひとつ ひとつ、
 心の痛みは違うもの。

 お医者さんが、
 薬を処方するように、

 その人にあった、
 その人のための“童話”を
 処方いたします。

 ご用命は、下記、
 「フェアリーテイル・セラピー」より。

■オフィシャル・ホームページ
ひとつだけ

■絵本創作ユニット「くまみみ」
・くまみみのおもちゃ箱

■提携会社

・Art Bridal Creation様
・office-y-two様
・Flower Land Japan様

■作品掲載サイト
「5分で癒される物語」
5分で癒される物語を配信しています。時間がない人でもちょっとの時間にちょっとだけ元気になれる作品集。



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レンガのおうちの ミュージカル

レンガ

 ゴホ、ゴホ…。
 ゴホ、ゴホ…。
 ベッドのうえの おんなのこが、くるしそうに せきをしています。
 あしたは、おんなのこの たんじょうび。
 けれど、おんなのこは かぜを ひいてしまいました。
 それを しんぱいそうに みつめる、たくさんの かげが ありました。
 おもちゃばこの なかの ぬいぐるみたちです。
 クマのぬいぐるみも、ネコのぬいぐるみも、ウサギのぬいぐるみも。
 みんな、おんなのこが だいすきでした。
 「かわいそうな おんなのこ。なんとか げんきに なってもらえないかな」
 「そうだ、ぼくたちで おんなのこを げんきにしようよ!」
 しかし、どうすれば おんなのこは げんきになるでしょう。
 ぬいぐるみが とつぜん うごきだしたら、おんなのこは びっくりしてしまいます。
 みんな、うんうん なやんでいます。
 すると、ハリネズミの おばさんが あることを おもいつきました。
 「…なるほど、それは いい!」
 「そうだね、それなら きっと、げんきになってくれるさ!」
 ぬいぐるみたちは、いそいで なにかのじゅんびをはじめました。

 そのひのよるのこと。
 おんなのこも、すこし ねつがさがったみたいです。
 けれど、まだ くるしそう。
 「…いいかい、みんな」
 ハリネズミの おばさんが、しずかなこえで いいました。
 ほかの ぬいぐるみたちも しずかに うなずきます。

 シャン シャララ シャン シャン シャーン
 シャン シャン シャララ シャーン シャン

 シンバルのおとがきこえてきました。
 おもちゃばこが、ゆっくりと ひらいていきます。
 おんなのこは、めをこすりながら、それを みつめていました。
 すてきなレンガの おうちが あらわれました。
 その おうちのまえに、ハリネズミの おばさんが たっています。
 「おたんじょうび、おめでとう。いちにち はやいけど、わたしたちからの プレゼントよ」
 おんなのこは、めを かがやかせながら、おもちゃばこの まえに すわりこみました。
 すると、ぬいぐるみたちが いっせいに とびだしてくるでは ありませんか。
 きれいな ピアノの ばんそうがきこえてきます。
 
 ♪ルンルン ぼくらは ぬいぐるみ
  ルンルン うれしい ぬいぐるみ
 
  おんなのこの おうちにこれて
  とっても とっても しあわせです

  いつも げんきを ありがとう
  きょうは ぼくらが げんきを あげる♪

 すてきな うたがおわると、おんなのこは パチパチ はくしゅをしました。
 クマたちが いちれつに ならびます。
 「いつも、すてきな リボンを ありがとう。これからも、げんきでね」
 つぎに、ウサギたちが ならびます。
 「すてきな おようふくを ありがとう。にんじんも のこさず たべてね」
 サル、キツネ、ハリネズミ。
 カエル、ネコ、ロバに、ハムスターに、イヌまで。
 みんな、おれいのことばを おんなのこに つたえました。
 さいごに、しろくまが まえにでます。
 「きみが、パンダがすきだってきいたから、くろく ぬってみました…」
 はずかしがりやの しろくまをみて、おんなのこは おおよろこびです。
 「でも、ぼくは しろくまなので、パンダは べつに かってください…」
 おんなのこは、わらいながら うなずきます。
 たのしいじかんは、あっというまに すぎていきました。
 「もう、おわかれの じかんです。また、あした げんきなえがおで あいましょうね」
 ハリネズミのおばさんが そういうと、おもちゃばこは とじていきました。
 おんなのこは、さいごまで てをふっていました。
 はふぅ、と ちいさな あくびがでました。
 まどのそとに まあるい おつきさまが うかんでいました。

 つぎのひの あさのこと。
 おんなのこは、げんきに めをさましました。
 きのうまでの ねつが うそのように、すっかり さがっています。
 おんなのこは、すぐに おもちゃばこを あけました。
 きのうの おれいを いおうとしたのです。
 けれど、そこには いつもどおりの ぬいぐるみが すわっているだけ。
 「あれは、ゆめだったのかな…?」
 おんなのこは、くびをかしげながら、へやを でていきました。
 あいたままの おもちゃばこに、まぶしい たいようの ひかりが さしこんできます。
 パンダのままの しろくまが、ちいさく あくびをしました。

テーマ:児童文学・童話・絵本 - ジャンル:小説・文学


夏の思い出

20070910212732.jpg

 それは、暑い日のことでした。
 水玉模様のスカートを履いた女の子が、
 車の中から誰かを呼んでいます。
 「ねえ、パパー!はやく、はやくー!」
 お母さんが、家の中から荷物を持って出てきました。
 女の子の頭に、麦藁帽子をかぶせます。
 お父さんが、小さなあくびをして出てきました。
 「ちょっと、パパ。やる気だしてよね」
 車が動き出しました。
 向かうのは、女の子の大好きな動物園です。

 「いらっしゃいませ!」
 女の人が、元気な声でチケットを売っています。
 女の子はそれを下から眺めながら、お母さんの手をにぎりました。
 動物園はたくさんの人でにぎわっています。
 ライオンのオリの前にも、ゾウのオリの前にも。
 売店にも、記念撮影のコーナーにも、人だかりができています。
 女の子は、お母さんに連れられて、色んな動物のオリを見てまわりました。
 最後に、ペンギンの所にやってきました。
 たくさんのペンギンの中に、3匹だけ群から離れているペンギンが見えました。
 女の子は、お母さんの手を引いて、そのペンギンのところに向かいました。
 じっと、ペンギンを見つめます。
 ペンギンも、女の子に気づいたのか、こっちを見ています。
 少しすると、大きなペンギンは、少し小さなペンギンの方を向きました。
 何やら相談しているように見えます。
 女の子がその様子を見ていると、急に雨が降ってきました。
 お母さんは、女の子の手を引いて、
 お父さんの待つレストランに走っていきました。

 家に帰ってきてからも、
 女の子は、あのペンギンのことが頭から離れませんでした。
 「…何を言っていたのかしら」
 イスに座って、足をブラブラさせています。
 天井を見たり、テーブルにひじをついてみたり。
 そして、窓の外を見たときでした。
 女の子は何かを見つけました。
 手紙が空から降ってきたのです。
 窓を開けると、手紙はゆっくりと女の子の部屋に入ってきました。
 手紙を開けてみます。
 そこには、汚い字で、こう書かれていました。
 「あなた あいたい ぺん まつ ぎんぎん」
 女の子は首をかしげます。
 そして、窓からもう一度空を見上げました。
 「ぺん…まつ…ぎんぎん。ぺんぎんさんから?」
 女の子はお母さんの所に走っていきました。

 次の日曜日のこと。
 お父さんは、また運転手をすることになりました。
 車が止まります。
 あの動物園にやってきたのです。
 不思議なことに、お母さんには、あの手紙の字が見えませんでした。
 それでも、女の子はペンギンを見たいとお願いしたのです。
 女の子は、ペンギンの所に走っていきました。
 お母さんも、心配そうに女の子の後を追いかけます。
 お父さんは、あいかわらず、動物には興味がないようでした。
 「来たよ!ペンギンさん!」
 周りの人が、女の子の方を見ています。
 お母さんが、恥ずかしそうに、しーっと指を立てました。
 寝床の穴の中から、ペンギンが1匹出てきました。
 あの、大きなペンギンです。
 嬉しそうにこっちを見ています。
 女の子がそのペンギンに手を振ると、穴の中から残りの2匹も出てきました。
 大きなペンギンは、両手をばたつかせて、何かを伝えたいようでした。
 女の子は、すぐに持ってきた手紙をかばんから取り出しました。
 何となく手紙を見るように、と言ってるように見えたのです。
 すると、どうでしょうか。
 文字が新しくなっているではありませんか。
 やっぱり、あの手紙はペンギンからのものだったのです。
 「ありがとう たのみ きいて ある きいていて」
 手紙には、そう書かれていました。
 女の子は、ペンギンに向かって大きくうなずきました。
 そして、手紙の文字が変わったのを見ると、すぐにお父さんの所に向かいました。

 その次の日曜日。
 どうやら、お父さんもヘソを曲げたようです。
 「そんなに毎週、動物園に行かなくてもいいだろう?」
 女の子は必死にお願いしましたが、今回ばかりはどうしようもありません。
 お父さんは、ゴルフバッグを持って、出て行ってしまいました。
 お母さんも、お買い物に出かけました。
 どうしよう、ペンギンさんのお願いを聞いてあげないといけないのに。
 女の子は、どうにかして動物園に行けないかと考えました。
 歩いていくには遠すぎます。
 自転車だって無理です。
 「あ!そういえば!!」
 女の子は、急いで電話の所に向かいました。
 お友達が、今日、動物園に行くと言っていたのです。
 お願いして、一緒に連れて行ってもらおう。
 女の子は、すぐにお友達に電話をかけました。
 コール音が、何度も繰り返されます。
 女の子は、がっかりして受話器を戻しました。
 留守番電話に繋がったのです。
 「…もう、これしかない」
 女の子は、麦藁帽子をかぶると、玄関のドアを開けました。

 その日の夕方。
 お父さんは、町中を走り回っていました。
 女の子が行方不明になったのです。
 お母さんも、お友達の家に電話をかけ続けています。
 近所の人も協力してくれました。
 警察も、女の子を探しています。
 それでも、女の子は見つかりませんでした。
 空もだんだん暗くなってきました。
 その時です。
 警察の人が、お父さんの所にやってきました。
 女の子が見つかったというのです。
 それは、動物園の飼育員さんからの連絡でした。
 お父さんとお母さんは、すぐに動物園に向かいました。

 女の子は、ボロボロの服を着てイスに座っていました。
 顔を腕も、泥だらけです。
 「どうしても、動物園に行きたいっていうもんですから」
 お父さんが、女の子を連れてきたおばさんにお礼を言いました。
 お母さんは、その二人をかけ分けて、女の子の所まで行きました。
 パチン!
 大きな音が、部屋の中に響きます。
 お母さんが、女の子のほほをぶったのです。
 女の子は、涙をこらえて黙っています。
 「私が聞いても、ずっと黙ったままなんですよ」
 飼育員さんが、お茶を持ってきました。
 後ろから、飼育員さんの子供がやってきます。
 女の子と同じ位の子でした。
 「この子が、何とかお家の連絡先を聞いてくれてね」
 今度は、お母さんがその子にお礼を言いました。
 お母さんが、静かな声で女の子の名前を呼びました。
 そして、どうして動物園に来たがったのかを尋ねます。
 それでも、女の子はだんまりです。
 「そういえば」
 女の子を連れてきたおばさんが、何かを取り出しました。
 ひまわりの花でした。
 「これを、この子が大事そうに持ってたわよ」
 おばさんが、お母さんにひまわりを渡そうとすると、
 女の子はイスから立ち上がって、それを奪いました。
 そして、入り口のドアを開けて、外へと飛び出して行ったのです。

 女の子は、ライオンのオリの前で捕まりました。
 お母さんの腕の中で、女の子は騒ぎます。
 後から、お父さんと飼育員さんも追いつきました。
 飼育員さんの子供も一緒です。
 お母さんが、大きな声をあげました。
 それでも、女の子は騒ぎ続けました。
 そのときです。
 誰かが、女の子の頭に手を乗せました。
 お父さんです。
 そして、お母さんに手を離すように言いました。
 「…おとうさん?」
 不思議そうにこっちを見つめている女の子に、
 お父さんは手で合図をしました。
 好きにしないさい、と。
 女の子は嬉しくなって、お父さんに抱きつきました。
 そして、地面に落ちたひまわりを拾うと、ペンギンの所に走っていきました。

 大きなペンギンは、穴の外で、女の子を待っているようでした。
 女の子は、すぐに手に持ったひまわりを、ペンギンに投げます。
 大きなペンギンは、それを器用に拾うと、穴の中から残りの2匹を呼びました。
 「あのペンギンは…」
 飼育員さんが、後ろから声をかけました。
 不思議そうに見つめるお母さんに、飼育員さんは看板を指差しました。
 そこには、ペンギンが引っ越してしまう、ということが書かれていました。
 「でも、どうして、それをあの子が知ってるんだろう?」
 飼育員さんが不思議がるのも無理はありません。
 どのペンギンが引越しするかは、飼育員さんしか知らないことなのです。
 みんなが、女の子を見つめます。
 すると、女の子はかばんの中から、あの手紙を取り出しました。
 「これで がいこく いける ひまわり みれたよ」
 女の子は嬉しそうにうなずきました。

 次の日のこと。
 女の子は、海にやってきました。
 遠くの方を見つめています。
 「元気でね、ペンギンさん」
 砂浜を越えると、お父さんが車のエンジンをかけました。
 車に乗ると、女の子はすぐに眠ってしまいました。
 とても疲れていたのでしょう。
 窓からは、爽やかな風が入ってきます。
 もう、夏も終わり。
 ゆらゆらと、女の子の手の中で揺れているもの。
 それは、一枚の写真でした。


full of message

full of message

 ちいさな町の、ちいさな病院に、
 ひとりの女の子が運ばれてきました。
 ふう、ふう…。
 とても苦しそうな顔をしています。

 それは、今日の昼過ぎのことでした。
 お昼ごはんを食べた女の子は、
 お母さんのエプロンをひっぱります。
 「ねえ、今日は、お兄ちゃんの誕生日なんでしょう?」
 お母さんは、洗い物の手を休めてしゃがみこみました。
 女の子は、お兄ちゃんのために何かプレゼントしようと考えました。
 でも、女の子には、プレゼントを買うお金はありません。
 お母さんは、女の子の頭をなでます。
 「お店に売っているものだけが、プレゼントじゃないでしょう?」
 女の子は、お母さんが指差した方を見つめます。
 細い花瓶に、かわいいお花が挿してありました。
 女の子の顔が、ぱぁっと明るくなります。
 「ありがとう、お母さん」
 女の子は、すぐに自分の部屋に行き、着替えをしました。
 お気に入りのボーダーシャツを、鏡の前で整えます。
 「気をつけて行くんだよ」
 玄関を出る女の子に、お母さんは微笑みました。

 「ようし、このお花にしよう!」
 女の子は、近くの野原にやってきました。
 そして、キレイなお花を数本手に取ったのです。
 これで、お兄ちゃんも喜んでくれる。
 女の子は、うれしそうにお家に戻っていきました。
 そのときです。
 道路を渡ろうとした女の子の目に、大きな車が飛び込んできました。
 静かな町に、大きなブレーキの音が響きました。

 ランドセルを投げ出して、男の子が病室に入ってきました。
 お兄ちゃんです。
 女の子の名前を、何度も何度も叫んでいます。
 けれど、女の子は目を覚ましません。
 お医者さんとお父さんは、難しい話をしています。
 お母さんは、心配そうな顔をして、その話を聞いているようでした。
 「どうして、こんなことに…」
 男の子は、必死で涙をこらえました。
 僕が助けてやる。
 絶対に、死なせるもんか。
 男の子は、お医者さんにたずねます。
 「何か、妹のために出来ることはありませんか?」
 お父さんとお母さんは、驚いた顔をしています。
 真剣な目をした男の子に、お医者さんはにっこり微笑みかけました。
 「そばにいてあげてください。そして、手を握っていて」
 男の子は大きくうなずくと、女の子のベッドの横にイスを置きました。

 それから、ずいぶん経ったころ。
 もうすっかり夜になっていました。
 「…いけない、寝ちゃったみたいだ」
 男の子は目を覚ましましたが、女の子は目を閉じたままです。
 女の子の手を、男の子はぎゅっとにぎりました。
 「神様…。妹の怪我を治してあげて」
 小さな声で、男の子がつぶやきました。
 そのときです。
 窓の外が一瞬だけ、光りました。
 男の子は、窓を開けて外を見渡しました。
 すると、光り輝くチョウチョが飛んでいるではありませんか。
 「不思議なチョウチョだ」
 チョウチョは、病室の中に入ってきます。
 そして、男の子の周りを飛び回りました。
 「おい、こいつがそうなのか?」
 一匹のチョウチョが、もう一匹のチョウチョに話しかけました。
 「チョウチョがしゃべった!?」
 男の子の声が、病室に響きます。
 「俺たちの声が聞こえてる。やっぱり、こいつに間違いないな」
 チョウチョが男の子の方をみつめます。
 「俺たちは、神様の使いである。お前の願いを叶えにきた」
 男の子は、不思議そうにチョウチョを指でつつきました。
 チョウチョは怒って、怒鳴ります。
 「とにかく、これから俺たちはお前に魔法をかける」
 チョウチョは、男の子の周りを、ひらひらと飛び始めました。

 それからしばらくして。
 誰かの声に、男の子は目を覚ましました。
 そこには、見たこともない男の人が心配そうにこちらを見ていました。
 「だいじょうぶかい、きみ」
 男の子は、片手を挙げて、大丈夫、と立ち上がりました。
 空を見上げます。
 何も変わらない、あの日の空でした。
 妹が事故にあった、あの日の。
 チョウチョが一匹、男の子のところにやってきました。
 「どうやら、成功のようね」
 男の子はその声に、自分の姿を確認しました。
 いつもより、離れて見える地面。
 大きな手に、大きな足。
 伸びた髪と、見たこともない服。
 それは、男の子の未来の姿でした。
 本当に大人になったんだ。
 そう、男の子は声に出そうとしました。
 しかし、空気だけがこぼれて、言葉になりません。
 これも、チョウチョの魔法のせいでした。
 チョウチョが、男の子の願いを叶えたとき、ある条件を出してきたのです。
 それは、男の子の命と引き換えに、過去に戻れるというものでした。
 条件はそれだけではありません。
 男の子は、大人になった姿になること。
 そして、一切言葉は話せなくなること。
 男の子は、妹のために死ぬ覚悟なのです。
 「さて、女の子を探しに行きますか」
 走り出す男の子の後を、チョウチョが2匹ついて行きました。

 それから、1時間ほどが経ちました。
 男の子は、自分の家の近くまでたどりつきました。
 あの日、女の子は花を取りに、この野原に来たはず。
 その帰りに事故に会ったのだから、ここで待っていれば、助けられるはず。
 男の子は、女の子が来るのを待ち続けました。
 しばらくして。
 道路を渡って、女の子がやってきます。
 あの、ボーダーシャツ。
 男の子の妹です。
 男の子は、すぐに女の子のところにかけよりました。
 女の子は、キレイな花を数本を摘んでいました。
 「わわっ」
 ぎゅっと抱きしめられた女の子。
 すぐにでも、泣き叫んで助けを呼ぶだろう。
 チョウチョたちは、そう思いました。
 そしたら、魔法の効果によって、男の子は消えてしまう。
 女の子を助けることも出来ずに。
 そればかりか、元の時代でも、男の子はいなくなってしまうのです。

 ―風がひとつ吹きました。
 地面に咲くタンポポが、ゆっくりと風に流されます。
 それは、とても小さな声でした。
 それは、とても不安な声でした。
 けれど、それは男の子に、はっきりと聞こえました。
 
 「…お兄ちゃん?」

 男の子の体が、急に光りだしました。
 チョウチョたちは、驚きます。
 まさか、あの魔法の条件をクリアするなんて。
 もし、大人の姿で、自分に気づく人がいたら…。
 魔法はかき消され、元に時代に戻ることが出来るのです。
 もちろん、女の子も無事のままで。
 少しずつ、男の子の体が元の時代に戻っていきます。
 女の子は、男の子の名前を呼び続けました。
 「大丈夫、すぐに会えるから」
 その声も、光る体と一緒に消えてしまいました。

 真っ暗な病室の中に、男の子はいました。
 「そうか、入院してないんだから、この部屋も使われなかったんだ」
 チョウチョは、もうどこにもいませんでした。
 男の子は、落ちているランドセルを背負うと、家に戻りました。
 お母さんが、帰りが遅いことを怒っています。
 その声に、反応するように、奥の部屋の扉が開きました。
 女の子が、後ろに何かを隠しながら笑っています。
 その何かが、宙を踊りました。
 男の子が、女の子を抱きしめたのです。
 「…ただいま」
 女の子は不思議そうな顔をしています。
 そして、とても小さな声が聞こえました。
 そう、過去の世界で聞いたのと同じ声が、耳元で聞こえました。
 「おかえりなさい」
 玄関が開いて、ケーキを持ったお父さんが帰ってきました。

にぼしランドのギターネコ

タマコ


 どうだい、この写真。
 はは、確かにネコだな。
 かっこいいだろう?
 いや、このネコは売ってないよ。
 …。
 …じゃあ、少しだけお話してあげようか。
 ほら、こっちにきて座りな。
 あれは、父さんが5才の頃。
 今のお前と同じと年のことだった…。

 幼稚園の帰り道。
 そう、お前と同じ幼稚園に行ってたんだよ。
 父さんは、いつも公園に遊びに行っていた。
 ブランコが大好きでね。
 ほら、お前のおばあちゃん、父さんの母さんって、ギターの先生だろう?
 おばあちゃんは、父さんにもギターをやらせててさ。
 その練習がきつかったんだ。
 だから、その日も、ギターの練習をさぼってブランコで遊んでた。
 そしたら、草むらの中から、小さなネコが飛び出してきたんだ。
 そして、こっちをジーッと見てる。
 父さんは、可笑しくなって、ブランコを止めた。
 ネコは、座り込んでアクビをする。
 その瞬間に、父さんはネコを捕まえようとブランコを降りた。
 ネコは逃げる。
 父さんは追いかける。
 ネコはどんどん、狭い道や壁の間、穴の中を進んでいく。
 父さんも、必死になってネコを追いかける。
 すると、ネコが立ち止まった。
 チャンスだ!
 父さんは、ネコにとびかかった。
 すると、そこには細い穴があってね。
 ネコは、その穴の中に飛び込んだ。
 父さんもそのまま、穴に向かって飛んでた。
 ぶつかる!
 そう思ったときだった。
 そこで、不思議なことが起こったんだ。
 ネコがやっと通れるような穴に、父さんは飛び込めたんだよ。
 穴は、とっても深くてね。
 中は、スベリダイのようになっていた。
 父さんは、穴の中を滑り落ちていく。
 ネコの姿は、ちっとも見えてこなかった。

 しばらくして、父さんは目を開けた。
 どうやら、穴から出たときに、地面に落ちたようだった。
 すると、どうだろう。
 そこは、見たこともないような世界だった。
 まわりは、みーんなネコ。
 パン屋さんもネコ。
 おまわりさんもネコ。
 タクシーの運転手さんも、大工さんだってネコだった。
 そして、驚いたことに、父さんもネコになっていたんだよ。
 不思議な話だろう?
 とにかく、父さんは、まずここがどこなのか訪ねてみた。
 帰ってきた言葉は―。
 「ニャー」
 誰に聞いても―。
 「ニャー、ニャー」
 どうやら、人間の言葉は伝わらないようだった。
 かといって、父さんはネコの言葉は分からない。
 さて、どうしたものか。
 そのとき、誰かが父さんに声をかけた。
 それは、公園にいたネコだった。
 「あなた、穴を通り抜けたのね」
 人間の言葉が通じる!
 父さんは、ここがどこなのか、そのネコに尋ねた。
 「ここはネコの国。にぼしランドよ」
 そのネコは、タマコといった。
 にぼしランド?
 変な名前だな、と父さんは思った。
 それから、どうにかして人間の世界に戻れないか聞いてみた。
 「しあわせにするの」
 そう言うと、タマコは道を歩いていたネコを指差した。
 そのネコは、どうにも悲しそうな顔をしている。
 「このネコたちをしあわせそうな顔にしたら、
 人間の世界に連れて行ってあげるわ」
 父さんは一生懸命に考えた。
 しあわせ、しあわせ、しあわせ…。
 「ねえ、あなたは、人間だったとき何をすればしあわせだったの?」
 ブランコ。
 そう言ったが、にぼしランドにブランコは無かった。
 後は、ギターかな。
 にぼしランドに、ギターはあるようだった。
 しかし、ネコには演奏できない。
 ブランコもなければ、ギターも弾けない。
 他に、父さんには思いつかなかった。
 「じゃあ、私にギターを教えてよ」
 父さんには、ネコの気持ちは分からない。
 ネコの気持ちを伝えるには、ネコじゃないと。
 そう言って、タマコは楽器屋を紹介してくれた。

 それから、1週間。
 父さんは、おばあちゃんに教わったことを思い出しながら、
 タマコにギターを教えていった。
 初めは、タマコも苦戦した。
 それはそうだ。
 ネコの指は、ギターを弾くようには出来てない。
 タマコは必死に練習した。
 肉球がボロボロになっても。
 自分が世界を救うんだって。
 みんなをしあわせにするんだって。
 いつからだったかな。
 父さんは、タマコのことを好きになっていたんだよ。

 そして、タマコはギターを覚えた。
 ついでに、カッコイイ歌もね。
 父さんは、思いっきり素敵な服をプレゼントした。
 特に、真っ赤な首輪はお気に入りだった。
 小さな町の小さな路地。
 人通りも少ない場所で、タマコは歌った。
 カッコ良かったよ。
 その姿を、父さんは一枚の写真に残した。
 タマコの歌は、悲しい顔をしたネコたちをしあわせにしたんだ。
 それだけ、素敵な歌だった。
 最後の歌が終わったとき、父さんはにぼしランドから消えていった。
 「ありがとう」
 タマコの声が、聞こえてきたっけ。

 どうだい、素敵な話だろう?
 え、にぼしランドは、まだあるかって?
 そうだな、それから一度も行ってないからな。
 でも、きっと、素敵な音楽が流れているだろうね。
 ほら、母さんが呼んでるぞ。
 今日は、母さんがお歌を歌う日。
 しっかり、オシャレしていけよ?
 「ねえ、父さん!」
 うん?どうした。そんなに慌てて。
 「この真っ赤な首輪。母さんの机に入ってたんだけど…」